抽象代数(群・環・体)
細かい話題を束ねた概念ページ。各節は元は独立ページだった。
正規部分群・剰余群・群の直積
雪江『群論入門』2.8〜2.9(yukie-algebra-group-theory)。部分群 の剰余類 が「群」になる条件を与えるのが正規部分群であり、商群の構造と準同型定理の土台になる。複数の概念ページから参照されるハブ。
正規部分群
部分群 が
を満たすとき 正規部分群 といい と書く。直観は「共役で動かしても外に出ない=左右の剰余類が一致する」部分群。
代表例:
- アーベル群の任意の部分群()。
- 準同型の核 ()。これが正規部分群の最重要な供給源。
- ()、交代群 。
生成元による判定: , のとき、 で なら 。正規性のチェックは生成元だけ見ればよい(無限群では 側も要確認)。系として、 を含む最小の正規部分群は (正規閉包)。
例: , 。 なので 。
剰余群(商群)
のとき、剰余類の集合 に積
を入れると well-defined になる( に対し を使うと代表元によらない)。これで は群となり、 の による 剰余群(商群) と呼ぶ。
- 自然な写像 は全射群準同型で 。
- 逆に「商が群になる」⟺「 が正規」であり、正規性と剰余群はコインの裏表。
- 例: ( はイデアルでもある)。(指数2の部分群は常に正規)。
この構成が\ker\phi\cong\mathrm{im}\,\phi$ に直結する。可解群・べき零群の定義に現れる剰余列 も剰余群(→solvable-nilpotent-groups)。
群の直積
群の族 の直積 は成分ごとの積で群になる。
- の中で の元と の元は可換()。
- はともに の正規部分群。
内部直積の判定: , , なら 。写像 が同型で、交換子 から の元が可換になるのが鍵。正規性を片方に緩めると半直積 になる(, だが直積とは限らない)。
中国剰余定理(群論版)
なら
は well-defined な準同型で、 を使って全射、位数が等しいので同型。指数2の部分群の決定( の解析)など、有限アーベル群の構造解析の基本道具。環論では環同型としても成立する。
関連
- group-isomorphism-theorems / lagrange-fermat-cosets / solvable-nilpotent-groups / group-action-orbit-stabilizer
- abstract-algebra( など具体例の宝庫)
- yukie-algebra-group-theory / _moc-math
副有限群と逆極限
有限群の射影極限として得られる位相群。無限次ガロア理論と位相・環論の交差点にあり、このクラスタで何度も再登場する。
逆系と逆極限
有向順序集合 で添字づけられた群の族 と、 で (、)が整合する組を逆系という。その**逆極限(射影極限)**は直積の部分群
で、自然な射影 を備える。
副有限群
有限群の逆極限になる位相群が副有限群(射有限群、profinite group)。各 に離散位相、極限に誘導位相を入れる。同値な特徴づけ:位相がコンパクト・ハウスドルフ・完全不連結。正規開部分群が単位元の基本近傍系を与える。コンパクト性はTychonoffの定理から従う。
代表例は
で、いずれもコンパクト位相環の加法群として副有限。
無限次ガロア理論への応用
有限次ガロア拡大では中間体と部分群が一対一対応するが、無限次では破綻する。例: は絶対ガロア群として
となり、 と がどちらも固定体 を与えるため素朴な対応が単射でない。そこで Krull 位相(副有限位相)を入れ、閉部分群だけに制限すると中間体との全単射が回復する。これが無限次ガロア理論の主定理。なお位相群でも演算が ならLie群という別系列になる。
関連: abstract-algebra / point-set-topology / abstract-algebra / _moc-math
古典群・行列群(線形・直交・シンプレクティック・ユニタリ・二面体群)
雪江『群論入門』2.1, 2.3, 4.1(yukie-algebra-group-theory)。群論の具体例の大半は「行列のなす群」から来る。一般線形群を母体に、保たれる構造(行列式・内積・反対称形式・エルミート形式)で部分群を切り出すのが古典群の作り方。これらは正規部分群・群作用の標準的なテストベッドになる。
一般線形群とその部分群
母体は 一般線形群 ( 正則行列全体、積について群)。 も同様。ここから保存量で部分群を定義する。
| 群 | 定義 | 保つ構造 |
|---|---|---|
| 特殊線形群 | 体積(向き付き) | |
| 直交群 | 標準内積 | |
| 特殊直交群 | 内積+向き(回転) | |
| シンプレクティック群 | 反対称形式 J_n=\begin{psmallmatrix}0&I_n\\-I_n&0\end{psmallmatrix} | |
| ユニタリ群 | () | エルミート内積 |
| 特殊ユニタリ群 | エルミート+向き | |
| モジュラー群 | 整数格子 |
これらが群をなすことは、保存条件が積・逆元で閉じることを直接計算で確かめる(例: )。整数係数の では逆行列が余因子行列 から整数になるため が単元条件になる。
包含と正規性
包含写像 などは準同型。行列式準同型 の核が なので
同様に の核が で 。 は ( から )。これは準同型定理の典型的な応用。
二面体群
正 角形 (頂点 )を保つ の部分群が 二面体群 。回転 と鏡映 で生成され、
という関係を満たす( で挟むと回転の向きが逆転)。元は の 個で、 はすべて位数2の鏡映。回転 は 、鏡映は で区別される。 は平面の回転全体。
四元数群・その他
- 四元数: i=\begin{psmallmatrix}\sqrt{-1}&0\\0&\sqrt{-1}\end{psmallmatrix}, j=\begin{psmallmatrix}0&1\\-1&0\end{psmallmatrix}, k=\begin{psmallmatrix}0&\sqrt{-1}\\\sqrt{-1}&0\end{psmallmatrix} が生成するハミルトンの四元数群 は位数8の非可換群(クラインの四元群とは別物)。
- 置換行列 ( 成分が1)は の単射準同型を与え、。これがケーリーの定理(任意の有限群は対称群に埋め込める)の行列版。像は の Weyl 群。
群作用としての視点
は に線形に作用する(準同型 が 群の表現)。 の への作用は軌道が同心円 (等質空間)、原点以外の点の安定化群は自明。こうした作用の軌道・安定化群の解析が軌道・安定化群定理へつながる。表現論・ガロア理論の対称性の言葉もここが出発点。
関連
- abstract-algebra / group-isomorphism-theorems / group-action-orbit-stabilizer / symmetric-group-conjugacy-classes
- yukie-algebra-group-theory / _moc-math
ガロア理論と有限体
体の代数拡大と、その自己同型のなす群(ガロア群)の対応を調べる理論。クラスタの中でも最も厚く書かれているテーマで、有限次から無限次(副有限群を経由)まで一貫した道具立てになっている。
体と体拡大
可換環に加え、零でない全ての元が乗法逆元を持つものが体。体準同型は必ず単射で、素体 上の自己同型は恒等のみ。 を体拡大 と書く。代表例 。
- 代数拡大: の任意の元が 係数方程式の解になる。
- 分離拡大: 各元の最小多項式 が重根を持たない(標数 0 の体・有限体は常に分離的)。
- 正規拡大: 上の最小多項式の根がすべて に入る。 は正規だが は なので非正規。
ガロア拡大と基本定理
分離かつ正規な拡大がガロア拡大で、このとき 。ガロア群 は を固定する の自己同型のなす群。ガロアの基本定理は、中間体の全体 と部分群の全体 の間に、包含を逆転する一対一対応
を与える。部分群 の不変体 をとると はガロアで群は 。方程式の可解性は対応するガロア群の可解性に翻訳される。
有限体とフロベニウス写像
、要素数 の体は同型を除き一意()で、( は 次既約)として構成できる。乗法群 は巡回群(原始根の存在)。。
フロベニウス写像 は により体同型(非自明な自己同型)になる。これが有限体のガロア群を生成し、
絶対ガロア群と無限次への一般化
代数閉包 に対する が絶対ガロア群 。有限体の場合
となる。無限次拡大では基本定理の素朴な対応が崩れる(部分群の方が多い)ため、Krull 位相を入れて閉部分群だけに制限すると全単射が回復する。この位相の正体が副有限群であり、フロベニウスの整数論的応用(ヴァイユ予想・エタールコホモロジー)へ繋がる。
関連: abstract-algebra / abstract-algebra / _moc-math
環論と加群
足し算と掛け算が定まった世界(環)と、その上の線形構造(加群)を扱う代数の基盤。ガロア理論や代数幾何の共通言語になっている。
環・イデアル・剰余環
環 は和についてアーベル群、積について結合・単位元・分配法則を満たす。積も可換なら可換環。代表例 。
イデアル は加法部分群かつ 。倍数集合 が典型。
- 素イデアル : または 。 では素数と同義( は非素)。
- 極大イデアル: で間に真のイデアルが無い。極大 素。 では が両方を満たす。
差が に入る元をまとめた が剰余環で、自然な環構造を持つ。イデアル対応定理により を含む のイデアルと のイデアルが 1 対 1 対応し、環の内部構造を簡約して調べられる。
加群
-加群は、アーベル群 にスカラー倍 が分配・結合的に作用するもの。環が体なら加群はベクトル空間に一致し、加群はその一般化。部分加群は環自身を加群と見たときイデアルに対応する。
差が部分加群 に入る元をまとめて商加群 。準同型 に対し核 、像 を定め、
が成り立つ。これは群でも同形に成立する(準同型定理)。
完全列と直和・直積
加群の系列 が完全とは常に となること。 が単射 が完全。余核 も定義される。
加群族 に対し直和 (包含 つき)と直積 (射影 つき)は普遍性で特徴づけられ互いに双対。 や分裂補題(split mono/epi、)が重要な道具になる。
周辺概念
- 普遍性: 「構成より機能」。 を加群 ではなく射 の組として捉える。
- 局所化: の逆元を人工的に加えて大きい環を作る、分数の一般化。
- semiring: 環から負元を除いたもの。
- 付値: 環 から順序加群への を満たす写像で、位相体の完備化に使う。
- p進整数 は剰余環の逆極限として現れる。
関連: abstract-algebra / algebraic-geometry-schemes / category-theory / _moc-math